溺愛ENMA様
私はそのままスーッと後ずさり、来た道を引き返そうと身体の向きを変えた。

その時、

「六文船に乗るかい?」

え?

よくよく見ると、私の位置から右手側……木の陰になっている川面に小舟があり、そこに小柄なお爺さんがしゃがみ込んでいた。

「お爺ちゃん、その船に乗せてくれる?!」

鬼よりお爺さんのがマシ!

私はお爺さんに歩み寄ると、そう言って彼の顔を覗き込んだ。

「いいよ。六文出しな。いやちーと待ちな。あんたは……どうやら訳ありだな。なら、三十文出しな」

なっ、なんですって?!

最初六文って言ったくせに金額上げるって何?!

今完全に、足下見たわねっ!?
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