溺愛ENMA様
「たった今下した審判に従う以外に、お前に道はない。……連れていけ」

……閻魔だ。

閻魔の声だ。

涙が出そうになって、私は胸の前で無意識に両手を握り締めた。

すぐそこに、閻魔がいる。

「今日はこれにて閉廷!」

しわがれた声の主の言葉でガタンと誰かが立ち上がり、衣擦れの音がこちらに近づく気配がした。

咄嗟に柱の影に隠れ、人以外の存在をやりすごす。

……閻魔は……閻魔はここを通るのだろうか。

通らないのなら、会えない。

嫌だ、どうしても会いたい。

意を決して柱から離れ、そろりと歩き出したとき、庭に面した廊下の一部分が、フワリと明るくなった。
< 271 / 328 >

この作品をシェア

pagetop