溺愛ENMA様
その切り返しの早さが、私を拒絶している証明だと思えた。

閻魔は気付いていたのだ、私がここにいるのを。

その上でこちらを見ようともせず、帰れと言ったのだ。

耐えられなかった。

「閻魔、こっちを見て」

「…………」

あり得ないほど声が震えた。

「閻魔」

閻魔は真っ直ぐ前を向いたままで、私を少しも見ようとしない。

堪らず駆け寄り、私は閻魔の着物の袖を掴んだ。

「こっち見てよ、閻魔」

涙が出て声が上ずって、身体が震える。
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