溺愛ENMA様
けれどそれは多分一秒くらいで、すぐに彼の温もりは消え失せた。

「じゃあな、ルナ。幸せになれよ」

そう言った閻魔の横顔は酷く苦しげで、私はすぐに彼の気持ちが分かってしまった。

バカじゃないの、コイツ。

なんて下手なの。

そんな顔でそんなこと言わないでよっ。

あんなに強く抱き締めないでよっ!

閻魔のクセに。

閻魔大王のクセに!!

私から離れて去っていく閻魔の後ろ姿が霞んでいくから、私は何度も涙を拭った。

だって、最後までしっかりこの眼で閻魔の姿を見ておきたかったんだもの。

ずっとずっと、忘れないために。

何を忘れたとしても、閻魔の事だけは忘れたくない。

忘れたくない!!

「閻魔……」

やがて廊下の突き当たりを曲がった閻魔の姿が、私の視界から消えた。

「閻魔……」

全身の力が抜けていくのを感じながら、私はいつまでも立ち尽くしていた。
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