溺愛ENMA様
「なんで?!」

「これは、死人を乗せる六文船じゃあ。なのにワシは生き人を乗せてしまったんじゃあ」

急にメソメソ泣き始めたお爺ちゃんを何とかなだめようと、私は少し笑った。

「大丈夫だよ、外道衆しか見てないし」

するとお爺ちゃんはブンブンと、頭がぶっ飛んでいってしまう程首を左右に振った。

「いーや、ワシも十王審査にかけられてしまうんじゃ……うううーっ」

「大丈夫だって、ここで働いてるんだから、そんな死者と同じ扱いでは」

「いや、泰広王(しんこうおう)や初江王(しょごうおう)どころか、閻魔大王にだって叱られるかも知れん。ううっ、うっ、うっ」

「……お、お爺ちゃん……」

「うえっ、うおっ、ふぎーっ……」

泣くなっ!こんにゃろー!

なんて、勿論言えないわけで……ああ、もうっ!

……こうなったら、早く漕ぐしかない。

早く漕いでサヨーナラするしかないわ。

私は自分が泣きたい思いで歯を食い縛ると、今までにないスピードで船を漕いで対岸を目指した。
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