溺愛ENMA様
「ううっ……」

泣くまいって、泣いちゃダメッて思ってたのに……。

ジワリと視界が歪んだその時、

「ほら、立て」

目の前に変わった履き物が見えた途端、誰かが私の腕を持つとグイッと引き上げた。

咄嗟にその顔を見上げて、思わず私は息を飲んだ。

あ……!こ、この人は確か……!

……このイケメンはあの時……ここに降り立ったばかりに出逢った、あの時の彼だわ。

涙を拭くことも忘れ、私が呆然と見上げていると、彼がニヤリと笑った。

「イイ男すぎて見惚れてんのかよ」

私が何も言えないでいると、彼は鞘に収まった刀をクルリと回し、肩に担いで再び口を開いた。
< 33 / 328 >

この作品をシェア

pagetop