溺愛ENMA様
それはうわ言のようで、彼女は決して眼を開けなかったし、私の問い掛けが聞こえているとも思えなかった。

「どうして?どうして私は向こうに行けないの?」

やだ、これってもしかして……!

私は咄嗟に叫んだ。

「朱里、ダメよ!絶対に『向こう』へ行っちゃダメだからね!」

だってよく聞くじゃない。

死の淵をさ迷う時に、『向こう側』が見えるって。

川の向こうに綺麗なお花畑が見えていて、そっちに行ったら死んじゃうって。

もしかして朱里は、今まさに三途の川を渡ろうとしているのではないか。

だったら、だったら今止めなきゃ、朱里は『向こう側』へ渡ってしまって死んじゃうんじゃ……!?
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