妖狐の花嫁
(えっ、担任の先生 丸Tだ。)
入ってきた担任の先生が
あの丸Tだったのを見て、私だけでなく
咲や柚も声をあげそうになっていた。
……まさか、なんて思ってしまう。
でも主任だというだけで
その子がこのクラスに来るとは限らない。
そう思いながら 皆席に着くと、
なんと 私の前の席が
誰も座らずに空いていた。
(っ…え、嘘。)
それに咲と柚も気づいたのか、
後ろでコソコソ話しているのが聞こえる。
そんな中で 丸Tが私たちに向けて
話し始める。
「えっとーお前らの中で知ってる人もいるかもしれんが、
転校生が来てるので紹介する。」
いつもの気だるげな様子で
私たちにそう言うと、
「入ってきていいぞー」と廊下に向けて声をかける。
すると
ガラガラ---、と扉を開けて
1人の男の子が教室に入ってくる。
「───!」
入ってきたその子に
クラスの中がざわつくのが分かった。
私も一瞬 目を見張る。
(これは……確かに柚が騒ぐのもよくわかるなぁ……。)
その子を見て 私はそんな風に思った。
入ってきた男の子は
柚から話を聞いて想像していた何倍も
かっこよくて……オーラがあったから。
「えー、転校生の黒田吟(くろだ ぎん)くんです。じゃあ軽く自己紹介どーぞ。」
「黒田吟です。
1年間だけですがよろしくお願いします。」
クールなのかと思っていたけど
特にそんな印象はなく
優しそうな笑みを浮かべて
丁寧に挨拶をしてからお辞儀をした。
………でも 何でだろう。
何だか彼を見ていると
私の中で、
何か引っかかるような感じがする。