妖狐の花嫁
───案の定、その後は毎年恒例
校長先生から生活指導の先生まで
長い話が続いて、皆退屈そうに過ごしていた。
でもその間
私は黒田くんからもらったアメのおかげで
どうにか眠らずに話を聞くことができた。
目の前の彼も、もちろん起きている。
(…後ろ姿だけでも目の保養だなぁ…。)
彼の後ろにいて、そんなことを思う。
今日は朝から運がいい。
懐かしい夢を見たし、
親友たちと同じクラスになれたし、
かっこいい転校生と席が前後だし、
もらったアメも美味しい。
それに加えて、始業式の最中にも
こんな癒されることがあるなんて
やっぱり今日の私は運がいいなぁ。
そんなことを思いながら
黒田くんの後ろ姿を見ていると
不意に───頭の中で誰かの声がした。
『───華。』
(っ──!?)
誰かに、名前を呼ばれる。
思わず周りを見渡すけど
誰も変な様子はなく、先ほどと何ら変わりない。
でも……確実に、誰かに呼ばれた。今。
私は困惑しながら周りをキョロキョロするけれど、そのあと再び名前を呼ばれることはなかった。
(あの声……誰?)
どこかで…聞いたことがあるような気がする。
でもそれが誰のものなのか思い出せず
私はそのまま 始業式を過ごした。