妖狐の花嫁
「また迷子?
ははっ。昔から何も変わってないなぁ。」
黒田くんはそう言いながら、小さく笑みを浮かべて
驚いて突っ立っている私に
少しずつ近づいてくる。
──何故かその行動に 私はゾッとさせた。
「…何で、って顔してるね。
仕方ないかぁ、あれから10年以上経つもんなぁ。」
「…く、黒田くん?
一体、何の話をして…。」
わけのわからないことを呟く彼に
私は静かに尋ねる。
黒田くんは笑みを絶やさずに私を見て
さも『当たり前』というような口調で
私の質問に答えた。
「何の話?
そりゃ…俺と華の話に決まってるでしょ。」
「っ…!?」
そう言いながら
クスッと笑って私の目の前までやってくる黒田くん。
どうして、私の名前知ってるの…?
私がそんな疑問を持ちながら
困惑した面持ちで彼を見上げると、
私の顔を覗き込みながら
困ったように眉を下げて
その綺麗な顔で小さく笑った。
「忘れるなんて酷いなぁ華…。
俺はこんなに、お前に会いたくて待っていたのにさ。」
「忘、れる……?何のこと…?」
「…今日、夢を見なかった?」
(───!!)
黒田くんの言葉に
私は思わず目を見開いた。
どうして…そんなこと分かるの?
そんな風に思いながら
彼と目を合わせていると、
私の反応を肯定と見た彼が
笑みを深めて、私に言う。
「そりゃ分かるよ。
だってその夢…俺が見させたんだもん。」
「っ…え…?!」
「今日 とっても運が良いのも
ぜーんぶ、俺の仕業。」
クスクスと笑いながら
黒田くんは私の頬に手を添えて
その親指で…優しく撫でてくる。
呆然と彼を見上げて 困惑していると
黒田くんは少し目を細めて
小さく微笑んだ。
「俺が迎えに来たこと…華に知らせようと思って。」
「……む、かえ……?」
「──そう。
昔の『約束』、忘れちゃった?」
そう言った黒田くんを見上げながら
私は静かに、記憶を辿る。
そして
彼の『約束』というワードに
心当たりを見つけた。
『必ず───華ちゃんを迎えに行くから』
夢に出てきた
あの男の子の、あの台詞。