妖狐の花嫁
「っ……ま、まさか…!」
「やっと思い出した?
そうだよ。…俺があの時の男の子。」
そう言った黒田くんの声に
私はまたも目を見開いた。
…あんな昔のこと、覚えてたの?
それにもうあれから何年も経つのに
私のことも覚えて…?
私が驚いていると
黒田くんは艶っぽい笑みを浮かべながら
嬉しそうに私を見る。
「忘れるわけないよ。
…華は俺の初恋の人だからね。」
「は、初恋……っ?!」
そんなまさか、と
さらに驚く私を見て
黒田くんはまたクスクスと笑う。
(……あれ…でも待って…。)
彼は私を『迎えに来た』と言ってたけど
それは何のために?
再会なら今できたけど
迎えって……一体どこへ…
そんなことを考えていると
黒田くんは私の考えを読み取るように
クスッ、と小さく笑みをこぼした。
「あぁそっか…。
華はまだ『本当の俺』を知らないんだったね。」
「…本当の、俺…?」
そう笑いながら言う黒田くんが
どこか今朝までと違くて
私は思わず 1歩下がる。
すると同時に、黒田くんの手が私から離れる。
…何だろう、この感じ……。
(……黒田くんが、少し怖い…。)
先ほど、ここで会ってすぐの時も感じた
あのゾッとするような雰囲気が
今の彼から、もっと強く感じる。
そんな風に思いながら
困惑している私を
黒田くんは笑みを浮かべたまま見つめて
そしてその口を…静かに開いた。