妖狐の花嫁
「───俺は、妖狐だよ。」
そう言った黒田くんが
妖しく微笑んで 私を見下ろす。
(…妖狐………?)
妖狐って、妖力を持った狐…だよね?
でも今目の前にいる黒田くんは
正真正銘、人間。
それに妖狐なんて
本当にいるなんて聞いたことがない。
(一体何を言ってるの…?)
意味が分からず、全く信じられない気持ちで彼を見上げると
黒田くんは少し目を細めながら
小さく笑う。
「信じてないね。
……じゃあ、これならどう?」
黒田くんはそう言い
「少し待ってて。」と言いながら
私の視界を片手で塞ぐと、
少し経ってから
その手を静かに離した。
───すると
「っ……え…?」
目を開けた私の目の前に立っていたのは
青年らしい短い黒髪に
私の学校の制服である黒い学ランを着た
男の子ではなく、
長く真っ直ぐ伸びた黒髪に
黒い着物を着た
黒い狐の耳を持った……男性だった。
私はそんな彼を見て
思わず声を失った。
───本当に、妖狐だっていうの?
「この時が来るのをずっと待ってた。
…華に会いたくて、狂いそうだったよ。」
「っ……ぁ…。」
「…大丈夫。怖いことなんてしない。
だって君は僕の大事な───」
───大事な、花嫁なんだから。
彼がそう言ったのと同時に
私はその場で、意識を失った。