妖狐の花嫁
そう言いながら
ゆっくり私に向かって手を伸ばす彼。
───振り払おうにも、体が動かない。
そのまま
彼にされるがままの状態で
頬を撫でられ、顎を軽く掴まれる。
「ここはもう"現世"じゃない。
俺たちが住む…別世界の中だ。」
「っ……。」
「華の大好きな咲ちゃんも柚ちゃんも
お母さんだって…この世界にはいない。」
その意味、わかる?
彼はどこか嬉しそうに目を細めて
私にそう問いかけた。
震える私の体を優しく抱きしめて
その艶っぽい低い声で
私の耳元で小さく囁く。
「──頼れるのは俺だけなんだよ、華。
お前の逃げる場所は…どこにもない。」
「っ……!」
黒田くんはそう言いながら
愛おしそうに私の頭を優しく撫でて
私の体を抱きしめる。
私は薄っすら涙を浮かべて
その言葉を理解すると
徐々に動けるようになった体で
彼の体を押し退ける。
───それでも、彼の側は危険だ。
そんな風に思って
彼から離れようと、
押し退けた隙に部屋の出口まで走る。
しかし
「っ……?!」
突然、ドクッ---!と
何かに反応するように
心臓が大きく鳴った。
それと同時に
先ほどまでとは全く違う
比べものにならない程大きな力で---
体の動きを封じられた。