妖狐の花嫁
「…小さい頃、父親が管理する神社に降りる際に一緒について行ったことがある。」
「………。」
「そこで、俺はその子に出会った。」
後から説明するのも面倒なので
俺は出会った経緯から簡単に話し、
その"術"について説明をする。
「その子を見初めた俺は
代々伝わる『許嫁』の術をその子にかけた。」
「…許嫁の術……?」
他の種族にはあまり妖術を使う習慣が無く
身近でない話であるため
この言葉だけではそんなにピンとこないらしい。
まぁ、要するに…
「他人に取られないようにかける
婚前前の契約ってとこかな。」
「…本来それは結納の時などにかける術で
かけた本人しか解けない。」
俺の言葉に 真が説明を加える。
仁はそれを静かに聞くも
その重要性が分からない、と
眉間にシワを寄せたままだ。
まぁ確かに
一族のしきたりを知らない彼らに
この術の重大さは伝わらないだろう。
「狐の種族では
この術をかけた相手とは生涯を共にする決まりがあるんだ。」
「……なるほど。
必ず結婚する決まりってことか。」
「あぁ。…しかし、これは狐にかける前提での使用法だ。
それをもし 他の種族にかけた場合…」
真が仁へしきたりや術の説明をしながら
そこまで言いかけて、口を閉ざした。
仁がその様子に眉間を寄せて
「その場合はどうなるんだ。」と
真に話の続きを急かす。
しかし 真は目を伏せて
険しい表情をしながら黙り続けた。
「その場合は───相手も狐になる。」
「!!」
そしてそんな真の代わりに
俺が答えを告げた。
すると途端に
妖狐たち以外がザワつき始め、
辺りが騒がしくなる。
…真以外の四神も、皆目を見張っていた。
先ほど騒ぎを静めた仁も
その答えに目を見開いて
言葉を詰まらせていた。
(…何の考えも無く、俺が華をここへ連れてくるわけないでしょ。)
全ては
俺の───長い計画のうちなんだから。