妖狐の花嫁
重い代償
(っ……急がなきゃ。
彼がいつ帰ってくるか分からない…。)
私は薄暗い廊下を早足で歩きながら
そう頭の中で呟く。
───黒田くんが部屋を出た後、少し間を空けてから 部屋を出た。
彼の言葉通りにあそこへ残るという手もあったけれど、
それでは その後何をされるか分かったもんじゃない。
あの妖力や 彼の言う共鳴というのが起こってしまえば、
私はまた…動けなくなってしまう。
そうなる前に、動けているうちに
どうにかここから出なければ───。
そう思いながら、長い廊下を進んでいき
突き当たりにあった階段で 下へおりる。
とにかく、外へ出られればいい──。
そうなれば彼だって
今より探すのに手間がかかる。
少しは時間が稼げるはず。
私は急いで階段を駆け下りると
その先に続く廊下を早足で進んでいく。
そして左右に分かれた道を
適当に勘で右へと進んだ。
(っ…間取りがわからないから
自分のいる場所もよくわからない…。)
薄暗いのも手伝って
辺りもよく見えず、人の気配も感じない。
……思えば、ここへ来る間に
誰かに会うことは1度もなかった。
椋さんと黒田くん2人だけとしては
かなり広すぎる家。
きっと他にも同じような妖狐の仲間がいるはずなのに…どうして会わないんだろう。
そんな疑問を持ちながら
廊下を進んで行くと
不意に、後ろで物音がした。
───ギィ…
床が、軋む音。
私は思わず息を飲んで、
そのまま息を止めて様子を伺う。
……誰かいる?
こちらへ 向かってきているのだろうか?
そんなことを考えながら
私は物音を立てないように
慎重に……物陰に身を隠す。
そして 音のする方へ視線を向けて
目を凝らしてその先を見た。