妖狐の花嫁
「───みーつけた。」
「!!」
その姿を見る前に
私に向けてそう言った声に
音の正体を察した。
そして影の奥から
ゆっくりと、黒田くんが姿を現す。
その顔にはあの笑みが浮かんでいて、
私はそれを見るだけで
全身にゾワッ---と鳥肌が立つのを感じた。
「っ…ぁ……ゃ…!」
「部屋にいてって言ったのに…
出ちゃダメじゃん、華。」
黒田くんはそう言いながら
妖しく笑みを深めて
ゆっくり…こちらへ近づいて来る。
その姿を見るだけで 小さく震えだす体に
私は力を精一杯入れて、
廊下を駆け出した。
(っ……このまま真っ直ぐに行って曲がれば、撒けるかもしれない…!)
咄嗟にそう思って、振り返らずに 全力で走った。
長い長い廊下を抜けて
突き当たりを左へ曲がる。
曲がった先はまた左右に分かれていて
私はそれを右に曲がって
必死に走った。
…道が分かれていて助かった。
このまま走ってどこかに抜けられれば
きっと逃げ切れる。
そう思いながら
私はまた突き当たりを曲がった。
───その時だった。
(───っ、ぁ…!?)
ドクンッ───と
大きく心臓が鳴ると同時に
目の前に立つ人物に 目を見開いた。
「はぁーなっ。」
そう言いながら
愉快そうに笑みを深めて
こちらへやってくる彼。
───曲がった先に、彼が立っていた。
(っ…な、んで……?)
確かに、自分の後ろへいたはずなのに
彼は私の道を塞ぎ
そこへ笑いながら、立っていたのだ。
共鳴が起こって
上手く力の入らない私の方へ
彼がゆっくりと…足を運んでくる。
その姿を見ながら
ドクッドクッ---と心臓が嫌な鳴り方をした。
警報の…サインだ。
嫌な勘を感じながら
目の前までやってきた彼を見上げると
黒田くんはクスクス笑いながら
私の方へ…手を伸ばす。
「もう かくれんぼは終わり。
一緒に部屋に帰ろうね?」
「っ……やだ…嫌…!」
抵抗できない私の頬を撫でながら
不敵に笑って、
もう片方の手を腰へ回してくる彼。
そして
私の声も聞かず
私を抱き寄せると、頬を撫でていた手で私の視界を塞いで
小さく───呪文を唱えた。