妖狐の花嫁
そして手を退けられた時には
──また、あの部屋へ戻ってきていた。
呆然とする私に
いつの間に背後に回ったのかわからない彼が、後ろから私を抱き締める。
そして片手で優しく頭を撫でながら
「華…。」と私の名前を小さく呼んだ。
まるで 悪魔の囁きのようだった。
涙を浮かべながら
体を震わせると、黒田くんはクスクスと笑みをこぼしながら
私の耳元へ唇を寄せる。
「悪い子には お仕置きしなきゃね…?」
「っ……ゃ…!」
「はは、泣かないでよ華。
華が悪いんだよ?俺の言ったこと破ったりして…。」
私の泣き顔すら
彼を喜ばせる材料なのか、
黒田くんは微笑みながら
ツーーー、と 私の背中を指先で撫でた。
ビクッ!と体が反応して
それを見て彼は愉快そうに笑みを深めた。
「可愛い…華。
でもね、これはお仕置きだから。
華の気持ちいいことは---してあげない。」
黒田くんはそう言うと
不意に歪んだ笑みを浮かべて
スッ---と私の体から離れた。
力の入らない私は
支えを失い静かにその場にへたり込んで
後ろの壁へ、体を預ける。
彼は私の目の前へ回ると
パチッ、と指を鳴らせて
私の目の前に…大きな鏡のようなものを出した。
「…何、これ……?」
「これはね、元々華がいた世界を覗く窓みたいなものだよ。」
私の質問に
黒田くんが妖しく微笑みながら答える。
私はそれを聞いて目を見開く。
(私のいた世界…皆がいる世界…っ!)
彼の言葉を信じてそこを覗けば、
そこには見覚えのある部屋に
知っている人物がそこにいた。
これは……咲だ。
「咲……咲だ…!咲がいる…!」
「そう。これは華の大好きな咲ちゃん。」
私の反応を見て微笑みながら
彼がそう言って頷く。
しかし……こんなものを見せてどうするつもりなのか、と
冷静に頭を働かせた。
すると彼は
嫌な笑みを浮かべながら
咲を指差して───静かに私に告げた。