妖狐の花嫁
「──お前ら、この娘は吟の連れだ。
手を出したら許さん。獣達からも守れ。」
仁さんは 私の前に現れた狼達に
そう命令すると
彼らは1度だけ吠えて 返事をした。
(やっぱり、仁さんは狼なんだ。)
彼の耳と尻尾、目を見たときに
きっとそうなんだろうと思っていた。
仁さんは彼らの返事を聞くと
私の方へ振り返って、「乗れ。」と私に告げる。
「……え、乗る?
乗るって…狼に、ですか…?」
「それ以外に何がある?」
「っ……ぇ、あの…。」
唐突な要求に
私が慌てふためいていると、
仁さんは眉間にシワを寄せながら
小さく舌打ちをした。
それにビクッと肩を震わせるも、
次の瞬間──
仁さんに体を持ち上げられ
私は目を見開いて声を上げる。
「えっ、あ、あの…?!」
「騒ぐな。こいつらはお前を襲わない。
分かったら黙って乗れ。」
仁さんは私の体を持ち上げると、
そのまま大きな狼の背中に乗せて
私にそう言った。
「人間は狼にも乗れないのか。」と
少し呆れれように呟かれ
ちょっとだけムッとする。
(ここでは狼は普通かもしれないけど、
あっちでは滅多に見なれなかったし…!)
もう私たちの世界では何年も前にほとんどが絶滅している狼。
共存してない世界で育ったんだから
怖がったり乗れないのは当たり前だよ。
心の中でそんな風に思いながら
私は狼に跨って
その首元へ遠慮がちに腕を回した。
……振り落とされませんように。
「───では出発する。森の湖へ走れ!」
私がちゃんと乗ったのを確認して
仁さんは狼達にそう呼びかける。
それと同時に自身も狼に姿を変えて、
一斉に走り出した。
(わぁぁぁ──っ?!
速い!!走るの速すぎ怖い!!)
その勢いある走りに
私は思わずギュッ---と狼にしがみつく。
油断したら きっと落ちる。
そう思うとあまりにも強くて
私は目を瞑りながら 必死に堪えていた。
そのまま───森の奥へと進んでいく。