妖狐の花嫁
【仁side】







(………。)






俺は森の中を走りながら
静かに 先ほどの光景を思い出していた。








『…はぁ、はぁ……っ。』








胸を押さえながら苦しむ華。


その顔を覗き込んだ時に
思わず、息を飲んだ。




───目が 金色に変化していた。




目が金の種族は
妖狐のところ以外にない。


アレは……華は 妖狐への覚醒が始まっている証拠。





変化が出始めているということは
多分もう…時間がない。


昨夜 吟が言っていた通り
直に その姿は人間から妖狐へ変わる。








『………残酷だな。』








それを察した時に

思わず俺は そんな声を漏らした。




元の世界で築いた人間関係も
吟によって いとも簡単に壊され、

そして自身は…妖狐へと変わる。




それを自覚した時
あの娘はどれだけの絶望を味わうことか

俺には…想像がつかん。








(……吟の愛情があれだけ歪んでいたとは)







さすがの俺も 予想外だった。



吟とは幼馴染のように昔から交流があり、
奴がこれまでどんな育ち方をしたのかも よく知っている。




……あいつの心の穴も、よく知っている。






(だからと言って……あの娘にこれ程の代償を負わせても良いことにはならん。)







吟のやっていることは
自分の心を満たすためといえ

…華を苦しめているのには変わりない。





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