妖狐の花嫁
思った以上に早い到着に
俺は一瞬驚く。
しかし
そんなのはすぐ気にならなくなる程の違和感を、俺は吟から察知した。
(……何だ、この気は…。)
顔は笑っているが
心では…笑っていない。
吟から感じる『怒り』のようなこの気は…一体何だ?
俺はそう疑問に思って、吟へ声をかける。
「早かったな吟。
用はもう済んだのか。」
「あぁ、終わったよ。
…華の子守 どうもありがとう。」
吟は俺にそう言うと、
華の腕をグイッ---と掴んで
その場から立たせる。
───その仕草もどこか
力のこもったものに見えた。
「おい吟。そんな乱暴に掴まなくても---」
(───っ!)
俺が吟へそう言おうとすると
不意に吟が 視線だけをこちらへ向ける。
しかしその視線は
まるで俺に『殺意』を向けるような
鋭いもので───
思わず俺も 驚いて言葉を飲み込む。
「……何、仁?
別に普通に立たせただけでしょ。」
吟はそう言いながら
俺へ不敵な笑みを浮かべるも
やはりそれも
どこか少し狂気を帯びている感じがして
一瞬…背筋がゾッとした。
「じゃあ華、帰ろうか。」
「………う、ん。」
華は吟の言葉に
少し目を伏せながら小さく頷き、
俺に1度 小さくお辞儀をする。
「じゃあね 仁。」と
吟が一言挨拶をすると同時に
2人の姿が その場から消えた。
(……あの様子だと、きっとこの後
華の身に…何か起きるだろうな。)
俺は冷静にそう予測しながら
静かに目を伏せる。
……何もなければ、幸いだな。
俺はそう思いながら
狼達を集め、屋敷の方へ戻っていった。
【仁side END】