妖狐の花嫁
森で仁さんと別れると
また目の前が真っ白に光って
いつの間にかあの屋敷に戻っていた。
仁さんが水をくれたおかげで
共鳴の時の痛みも
今はほとんど感じない。
(…狼さん達にもお礼言うの忘れてた…。)
背中に乗せてもらったり
仁さんが水を取りに行ってくれていた間
私の身を守ってくれていたし…。
今度もし会ったらちゃんと言おう、と
考えていると
不意に
グイッ---!と横に手を引かれた。
「わっ---!?
っ……黒田、くん?」
当然私の腕を引いたのは
隣に立っていた彼で、
私は突然のことに驚きながら
彼を見上げる。
───すると
(───っ!?)
そこには
冷たい目で私を見下ろす
無表情の……黒田くんの顔があった。
私は思わずその表情に息を飲んで
身を固まらせた。
「……何だか、随分仲良くなったみたいだね?仁と。」
そう言って私に向けるその声色も
いつもより低い感じがする。
彼は 私の腕を掴み上げながら
もう片方の腕で 私の体を引き寄せると
顔を近づけてきて
先程よりも近い距離で…私を見つめた。
しかし、その瞳はどこか
冷めた熱を含んでいて──。
「仁に惚れちゃった?もしかして。」
「…そ、そんなことな…っ。」
「どうかなぁ?
仁はあぁ見えても優しい子だからねぇ。」
華のことも
結構気遣ったりしてくれたでしょ?、と
彼は薄っすら笑みを浮かべながら
私の腕を掴む力を…強めた。
「っ……!」
「───ほんの少しの心移りだって 許さないよ、華。」
彼はそう言いながら
射抜くような冷たい視線で
私を静かに見下ろす。
私はその狂気染みた視線と言葉に
小さく…足を震わせた。