妖狐の花嫁







「ほ…本当に何もないよ…っ。」

「……ふーん。」








私の言葉に
あまり信用してないような返事。




私はまた

彼の言う『お仕置き』のせいで
誰かの記憶を消されることになるのではと


少し 体が震え始める。








「はは、震えちゃって…可愛い。」

「っ………お願い、信じて…。」

「そうだなぁ…どうしようかな。」









彼はそんな私を見て
可笑しそうにクスクス笑いながら


冷めた目で私を見下ろしている。





そして少し考えてから

私の耳元に そっと唇を寄せた。








「じゃあ──……
俺からもう逃げないって、約束して。」

「っ……え…。」








黒田くんはそう言うと

妖しい笑みを浮かべながら
私を見下ろす。




それ以上何も言わないけれど

この言葉の裏に隠された
彼の"脅し"を、私は感じ取っていた。








───『断ったらまた消すよ。』








彼の目が、そう言っているように見える。





私は黙って彼を見上げながら

どうすればいいのか、
必死に頭を働かせるけど


彼と目を合わせていると


段々と……思考が鈍ってしまう。








(……逃げても、逃げなくても…
私がここから2度と帰れないのは…変わらないんだよね…。)








だとすれば



その中でも
1番穏便な答えは───…








「……どうする、華?」

「……っ…え、っと……。」









───もう、これしかないんだよね。








「……もう、逃げない……です…。」








私が小さくそう言うと

彼はその答えを聞き逃さず、
目を細めて 口角を上げた。








「…いい子だね、華。
素晴らしい選択だと思うよ…。」

「………。」







黒田くんは
先ほどまでのような冷たい目ではなくなり


満足そうに、私の頭を撫でる。





そして



私と視線を合わせていると

段々と目を伏せながら、
こちらへ……顔を近づけた。







< 45 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop