妖狐の花嫁
(───っ、え…?)
私はそれに驚いて
咄嗟に…顔をそらしてしまう。
しかし
そうして彼のキスをかわしてから
ハッとした。
「……華。」
「っ!」
───冷たい声。
私は小さく声を漏らしながら
ゆっくり彼を見上げる。
黒田くんは
無表情のままこちらを見下ろしていた。
「酷いなぁ…避けるなんて。」
「ぁ……ご、ごめんなさい…っ。」
謝るけれど
彼の機嫌は治っている様子がなく、
冷たく見下ろされたまま
私の頬へと───手が降りてくる。
その仕草に思わずビクッ!と反応すると
彼も眉をピクッとさせてから
少しだけ、眉間を寄せた。
そして優しく撫でるように触りながら、
彼は静かに口を開く。
「………何で…?」
「……。」
「何で華は、俺を拒むの…?」
(───!)
そう言った声が
先ほどまでと違って
どこか少し弱々しくて
私は思わず 目を見開いた。
目の前の彼は
険しい顔をしているくせに
その目は…少し哀しげで、
こちらに
何とも言えない気持ちを生ませる。
「…黒田、くん……。」
「……黒田くんじゃない。吟だよ。」
「…?」
「黒田は、人間界で勝手に名乗っていた名字。でも本来ここには名字なんてないんだ。」
───だから、吟って呼んでよ。
彼が私に そう呟いた。
私は黙って少し考えようとしたけど
目の前の彼を見ていたら…何だか
躊躇いなく、その名を呼んでしまえて──
「……吟。」
私がそう言うと
彼は小さく笑みを浮かべて
私を両手で抱きしめた。
…さっきまでの彼の様子が、嘘のようで
私は少し 混乱してしまう。