妖狐の花嫁
昨日も行ったあの食事部屋へ行き
向かい合うようにまた座る。
すると、すぐに椋さんが現れて
朝食を持って来てくれた。
「おはようございます、吟様 華様。」
「おはようございます 椋さん…。」
「おはよう、椋。」
朝の挨拶をしながら
目の前に朝食を並べられる。
どれも昨日と同じく美味しそうで
豪華だった。
…こんなの見たら
お母さんとお父さん、きっと大はしゃぎだろうなぁ。
(………もう、考えるのやめよう。)
思い出したり、想像してしまうと
忘れていた苦しさが倍増する。
───もう2度と、戻れないのに。
私は考えていたことを白紙にして
目の前の朝食にだけ 意識を向けた。
…そうしないと、辛すぎるから。
「…いただきます。」
「いただきます。」
2人で手を合わせて食事を始める。
昨日もそうだったけれど、
並んでいるのは私の好物ばかり。
どれを食べても 全部美味しかった。
「どう、華。美味しい?」
「…うん、美味しいよ。」
私は彼の方を見ずに
小さく笑みを浮かべながら返す。
…もちろん、作り笑い。
こんなに美味しいのに
何か足りないと思う原因が
ずっと、心に思い当たってしまうから。
…考えないようにするのって、こんなにも難しいのか。
「ちゃんと食べてね。
昨日みたいなのが続いたら、華倒れちゃうよ。」
「………。」
「もしそうなったら、俺が口移しで食べさせてあげるけどさ。」
そう言いながら
妖しく口角を上げる彼に
私は一瞬ビクッ、として
「た、食べるよちゃんと…!」と
慌てて返事を返した。
口移しだなんて、とんでもない。