妖狐の花嫁
───食事を終えると
吟はそのまま部屋を出て
真という人と会いにどこかへ行ってしまった。
私はその後
椋さんに連れられて、部屋へ戻される。
「それでは、暫しお待ちくださいませ。」
「…はい。」
椋さんにお辞儀をされ
私もお辞儀をして返して そう答える。
襖が閉じられて 1人になると
急にしん…となって
自分でも変な感じがした。
(……これからどうなるのかな、私。)
静かになった部屋で
1人、そんなことを考える。
───抵抗すれば
親友や家族から私の記憶を消され、
徹底的に 精神的な攻撃を受ける。
───従えば
私は一生 彼と
ここで生きていかなければいけない。
…どっちにしても、私は"独り"だ。
彼の『人形』として
これから生きていくしか道はない。
…せめて、抜け出す方法があればいいのに
そんなものは…きっとない。
『諦めろ華。あいつの側にいることを受け入れる他に お前に道はない。』
───仁さんにも、そう言われた。
諦めるしか方法はないんだけど
それなら……せめてこの気持ちを、どうにかして欲しい。
(こんな寂しくて辛い気持ち…消して欲しい。忘れさせて欲しい。)
もうどうにもならないなら
───いっそ、私の記憶を変えて欲しい。
…妖力で私の記憶を書き換えてくれれば
私はきっとこんなに辛くないし、
彼のことも愛せるし、
ここに住むことに抵抗はなくなる。
……そうすれば、きっと…
「………っ…。」
───こんな思い、しなくて済むのに。
(……これが 夢だったらいいのに…。)
私はそう思いながら
気づけば静かに 涙を流していた。
ポロ、ポロ…と
ゆっくり流れ出てくる。
自分で みんなのことを考えずに
忘れるなんて無理だ。
どうしても思い出す。
嫌でも考える。
……そう簡単に 切り替えなんて出来ない。
私は流れる涙を拭いながら
部屋の壁に寄っかかって
ズルズルと、その場へ座り込んだ。
そして静かに目を閉じる。
…誰もいない部屋で
ただ私1人だけの 息をする声が聞こえる。
───しかし そんな時だった。