妖狐の花嫁
「───にしても、何で?」
「…え?」
「何で、華から雄の匂いがするの?」
と
吟に言われた瞬間、
私の視界は───急に反転した。
目の前には
吟越しに…天井が見えて
目の前の吟は無表情で
私を見下ろしている。
まるで…さっきまでの態度が嘘のように
いつもの彼の雰囲気に戻っていた。
───寒気が 背筋を駆け抜ける。
「雄の匂い、って……そんな…。」
「するんだよ、華から。
……俺がいない間に 何してたの?」
吟は
私にそう言いながら目を細めて
ゆっくり……私の頬を指で触れる。
親指で撫でられながら
私は
その細めた瞳の奥の"怒り"に
体が、動かなくて──
「……誰といたの?」
「っ……誰、と…?」
彼にそう尋ねられて
私は一瞬混乱するけれど
少ししてから、ハッとした。
そして すぐに疑問を抱く。
(───あれ?私…)
───さっきまで、誰といた?
椋さんに連れられて
この部屋に来たまでは覚えてる。
でもそこからは
記憶が妙に…朧げで……
思えば何だか、途中で体が熱くなって
それで眠くなって…意識が…。
(……でも、何でそうなったんだっけ…?)
私……誰かと会ってたっけ…?
「───華。」
「っ、は…はい…。」
「誰と会ってた?
そいつと、何してたの?」
「……そ、それが…。」
何も、思い出せなくて……。
私が正直に彼に告げれば
彼は1度、疑心したような目でこちらを見たけれど
私の頭の中を覗いたのか
心を読み取ったのか
「本当に覚えてないんだ…。」と
小さく呟いて 私の上から退いた。
「…記憶を消された、か。」
「え…記憶を……?」
(消されたって……一体誰に…。)
それに、何のために?
私がそう疑問を抱いていると
吟が不意に近づいてきて、
顎をクイッ---っと掴まれる。