妖狐の花嫁
そして
上へ向かった後は───
「そこで……娘を奪う。」
「………。」
真のそう言った言葉が
静かに───部屋に響いた。
例え…
吟が娘の側にいようが
俺と真なら
少しの時間稼ぎぐらいは出来るはずだ。
その隙に 娘を逃す、ということか。
「…まぁ、流れは良さそうだな。」
「後は、やってみないと分からないですかね…。」
俺と楼がそう言うと
真は再び目を細めて
ゆるく───口角を上げる。
そして視線を俺の方に
じっ、と定めながら
その口元を 薄く開いた。
「───こっちにはお前がいる。
それだけでも少しはこちらが有利だ。」
「……俺か?」
「あぁ。
…狐の天敵は、『犬』なんだよ。」
そう言いながら
愉快そうに笑みを深める真は
まるで小悪魔のようで
ゾッとするような笑みという方が
適切かもしれない。
俺はそんな真を見ながら
少し眉を寄せると
「どういう意味だ。」と
率直に真に尋ね返した。
「犬より優れる狼の五感なら、
娘と吟の居場所をすぐ察知できる。
それに────」
「………。」
「───お前の真っ直ぐさは
歪んだ吟には『毒』だからな。」