涙の流し方
 帰宅

授業も終わり、家に帰る。



「ただいま」



また、家の中に声が木霊する。
静かすぎる家。

朝とは大違いだ。




そして、夕方。


今日は、お母さんと侑海が居る。

後の三人は、仕事で少し遅くなるみたいだ。


そのとき僕は、空くんを抱き締めながら、
少しうとうとしていた。



「ねぇ、知兄」


「何?」


「その熊さん、ちょうだい」



貸してとかじゃなくて――。



「ねぇ、知兄~。
その熊さん、欲しい~」



でも、これは、これだけは、ちょっと――。



「欲しい~」



くずった侑海は、空くんを引っ張ったから
少し強めに振り払った。



「ダメ!!」



思ったより大きめな声で叫んでしまった。


そうすると――。



「ぅっ、うぇーん、えーん」



泣かせてしまった。


どうしよう、こんな泣かすつもりじゃあ。


侑海の鳴き声を聞き付け、お母さんが来た。



「ちょっと、何か、侑海にしたの!」



すぐに侑海の側にいき、抱き締めて宥めていた。



「もう、お兄ちゃん何だから、弟泣かしたら駄目でしょ」



全部、僕が悪いの?



「侑海、どうしたの?言ってみなさい」



僕の話は聞いてくれないの?



「ぅ、知兄がね、熊さんね、くれないの」



だって、それは――。



「そうなの。
ほら、それ侑海にあげなさい。
お兄ちゃんなんだから、それに、六年生にもなったんだから、もういらないでしょ」



そう言って、お母さんは僕から空くんを
取り上げた。



「あっ」



空くん――。



「はい、侑海。
この熊さん欲しかったんでしょ。
だから、泣き止んで」


「ぅ、うん」



僕の気持ちはどうでも良いの?



お母さん、あれはね、僕の大切なものなんだよ。


再婚したとき。

なれない僕にお兄ちゃんとお姉ちゃんが選んで、お父さんが買ってくれたものなんだよ。

空くんをプレゼントされて、だんだんと打ち解けていった、思い出のぬいぐるみなんだ。

空くんは守りたかったけど、
知るよしもない母はそれを僕から取り上げて、侑海に渡してしまった。

お父さんたちに大切にすると言ったのに、
大切に出来ない、守れなかった。


お母さんは、僕の話は聞く気なんて無いよね――。


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