アナタのその恋、回収します
(い、今何とおっしゃいました!?)
上から目線でほくそ笑む借主に、リアルに開いた口が塞がらない。
(ちょっと待ってよ、私、大学に行けるんじゃなかったの?それに、「ペット」ってどういうことよ、冗談じゃないっ!)

「あ、あの……」
私は意を決してボスに視線を向ける。
「……何だ」
「ええと、今から別の借主を、とか……」
そこまで言うとボスは般若の如き形相で私を睨んできた。
「ああ!?」
「い、いえっ!冗談です、ハイ……」
「だよなぁ。ダントツで最高額の契約金を約束してきたそいつを今更蹴るとか、まさかしねぇよな?」
ボスのその言葉で、私はようやく合点がいった。
(「見る目ある」って、そういうことだったのか……貸す方もまともじゃないなら、借りる方も然りってワケね)
いくらかは見当もつかないが高額の契約金を払って人間をペットにするという時点で、もはやこの借主の精神構造はまともではなさそうだ。
しかし、まともじゃなくてもこの世界ではそういう客ほどありがたいのだろう。

「では鳥居坂さん、ご自宅までお送りします」
新藤さんが口にした借主の名に、私は瞠目した。
(鳥居……坂!?)
「い、今何て……?」
(り……理事長と同じ名字で御曹司……ま、まさか……!?)
愕然としている私に、新藤さんは淡々と答える。
「鳥居坂さんと君を、彼のご自宅までお送りすると言ったんだ」
「ご、ご自宅って、誰のご自宅ですかっ!」
「まったく、騒がしいな。彼のご自宅だ」
新藤さんは慌てふためく私をうるさそうに見ながら返した。
「だ、だからっ、その彼のご自宅って、その、まさか……」
「あー、ごちゃごちゃうっせぇ。ペットは黙ってついてこいっての」
鳥居坂さんが苛立ち気味に前髪を掻き上げる。
「なっ……」
(「ペット」という単語にこれほどの精神的打撃力があろうとは……)

怒り、悔しさ、切なさ、屈辱感……
「ペット」という一言は、向ける対象次第で含まれる意味合いがこうも変わってくるのだろうか。
(何かもう……色々サイテー……)
私はもう言葉を返すことすらできなかった。
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