アナタのその恋、回収します

（「御曹司」っていうから、運転手付きのスゴイ車に乗せられるかと思ってたけど……まさか電車とバスを使うとは……）
公共交通機関を乗り継いでの「散歩」の末にたどり着いたのは、平凡な学生が住んでいそうな平凡な外観のアパートだった。
（「御曹司」がこんなちっちゃいアパートに……？鳥居坂違いで、理事長とは何の関係もない人なのかな……？）
「入れよ」
鳥居坂さんは、モルタル２階建てで各階４部屋程度の小さなアパートの外階段を上りきったすぐ手前のドアに鍵を差し込み開けると、部屋の電気を点けながら私に入るよう促した。
「……」
とても返事をする気分にはなれず、私は黙ってそれに従うのだけれど……
「ぐうぅー……」
私の胃袋はそうはいなかい様子だ。
（はぁ……こんな時でも、お腹は空くんだなぁ……今の、聞こえちゃったかな？）
鳥居坂さんの様子をちらりと見てみるも、まったく意に介していない様子だ。
（気付かれてからかわれるのも嫌だけど……全く気付かれないってのも、何か切ないな……）

アパートの間取りはどう見ても１ＬＤＫ。
リビングには、一般的なフローリングの上にシングルベッドと小さなガラステーブルが置いてある。
テーブルの上にはパソコンとヘッドセットが置かれていた。
リビングとキッチンはカウンターで仕切られていて、カウンターのそばには２人掛けが精一杯な大きさのダイニングテーブルと椅子が２脚。
「バタン、ガチャ」
玄関のドアを閉め鍵を掛けると、鳥居坂さんは真っ直ぐにキッチンに入る。
「とりあえず、適当に座ってろよ」
「……」
私は言われるがまま室内に上がり、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。
ソファもなく、どう見ても独り暮らしの庶民的な学生のアパートにしか見えない。
「なぁ、こんな時間だけど、小腹減っただろ？何か食うか」
「えっ……？」
（さっきのお腹の音、聞こえてたの……？）
鳥居坂さんの問いかけに、私の手の平は無意識にお腹に当てられる。
（でも、ホイホイ食べちゃうとか、そういう気分じゃないし……）
しかし、人間空腹には逆らえない。
「パタッ……」
冷蔵庫のドアが開く音につい反射的に反応してしまい、私の視線は冷蔵庫の中に一直線だ。
「ダメだ、餌になるモンがねぇ……」
冷蔵庫の中を一瞥した鳥居坂さんはすぐにそのドアを閉めてしまった。
（ちょっと待ってよ、あんなに食材がぎっしりなのに……）
ちらっと見えただけだったが、冷蔵庫には、タッパーに詰められたカット野菜らしきものや、卵のパックなどが所狭しと詰め込まれていた。
（とても独り暮らしの学生が消費するような量じゃないよね？買いだめしてるのか、それともこの人、フードファイター並に食べるとか？）
「しょうがねぇな、ちょっと行ってくる」
「え……？」
「ちゃんと留守番してろよ。じゃあな」