アナタのその恋、回収します
「新藤、回収ご苦労」
デスクのイケメンが新藤さんに偉そうに言葉を掛けた。
(もしや、この人がビジネスにシビアな『ボス』?)
「手間取りまして申し訳ありませんでした、ボス」
(やっぱり……)
「いや、お前が上手くやらなきゃ切羽詰まって夜逃げしかねなかっただろうからな、あの夫婦は」
「それ程の愛情を注がれてきただけあり、小林サキはこのように品行方正で貴重な商品となりました」
この新藤さんという人は、無自覚なのかそうでないのか、
人の感情を乱高下させるのがひどく得意らしい。
(品行方正と思われてるのは嬉しいけど、それでも「商品」なのね……)

「見た目はイモだがな」
(イ、イモ!?)

ボスのイモ発言に、ソファに向かい合う3人のイケメンのうち、
20代前半と思しきスーツ姿の青年が笑いを堪える。
「イモ……ククッ」
彼は、年は私とそう変わらないように見えるのに、
スーツを着こなしている上に言動も自然体だ。
良く言えば「肝が据わっている」し、「落ち着いている」。
けれど、悪く言うと、その年にしては「擦れている」。

「おイモちゃん大歓迎!」
スーツ姿の青年の隣で、
ヨレヨレの背広と緩々のネクタイを身につけた男性がニッコリ笑った。
年の頃は30歳前後といった感じで、
黙っていればそこそこのイケメンだというのに、
どうにも締まりのないファッションと怪しい言動がそれを台無しにしている。

「……」
彼らと一緒にいるもう1人の男性だけは、
何も言わずに憐れむような目で私を見ている。
ワイシャツにニットのベストを重ねた、
割とカジュアルな感じの格好をした彼は、
外見は20代半ばで私より少し年上のように見え、
妙に物静かだ。

「おい、そこのイモ」
ボスは私を徹底して「イモ」と呼ぶらしい。
「な、何でしょう!?」
(って、こんな屈辱的なあだ名に返事するとか、情けない……)

「せめてもの温情だ、そん中から借主選べ」
私がボスの方を向くと、彼はソファに座る3人を顎で指した。
「は、はあ!?」
私が驚愕の声を上げると、
ボスは明らかに苛立った様子で眉根を寄せた。
「『はあ!?』じゃねーよ、このヘボイモ!さっさと借主選べ」
「いきなりそんなの……ムリです!」

言った後にはっと口を手で覆ったが……もう遅い。
ボスは眉間に深く皺を刻み、鬼の形相で私を睨んでいる。
「俺に逆らうとは……新藤、品質管理がなってねーな?」
「……申し訳ありません」
新藤さんがボスに頭を下げた。

「いいかボケイモ、お前のツルンツルンの脳ミソによぉく刻んどけ」
ボスが冷ややかな視線を私に突き刺してくる。
「お前がもし不良品ならば、俺は客にお前を貸し出すことができない。貸し出せなければこっちは儲けが出ない。じゃあお前を不良品にしたのはどこのどいつだ?あの夫婦だ。商品を破損して返却した夫婦には損害賠償を請求しなきゃなんねぇが……」
そこまで言うと、ボスは口の端を歪ませた。
「契約更新できなかった金欠カツカツのあの夫婦に、それが支払えるのか?」

「……」
(「ぐうの音も出ない」って、まさにこういう状況なんだろうな。お父さん、お母さん……)
両親の顔が浮かぶ。
(ここまで来て、2人に迷惑かけらんない……)

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