恋してバックスクリーン
穏やかで、内に秘めるタイプの寿彦さんは、とにかくなぞが多い。なにを考えているのか、いまいちわからない。

一度、些細なことがきっかけで別れて、よりを戻してからは、寿彦さんの方から歩み寄ってくれるようにはなったけれど。

まだ『好き』と言われたこともなければ、『付き合ってほしい』と言われたこともない。寿彦さんが私を好きなのかどうかもわからないし、彼女として認めてくれているのかもわからない。

でも、ね。こうやって、寿彦さんに抱きしめてもらって、静かに胸の鼓動を感じていると、愛されている気がする。

「寿彦さん、好き」

小さくつぶやくと、「うん」と返事はしてくれる。

それでいい。それでいいよね? 私たちはきっと、うまくいっているはず。

「初詣、いかへん?」

顔をあげて、もう一度、寿彦さんを誘ってみる。

「寒いから」

そう言うと、正月早々うるさい私の唇を、自らの唇で塞いだ。

「もう、寿彦さん……」

別れる前はキスなんて、自分からしてくれなかったのに……。それだけで、胸の鼓動が加速して、苦しいくらい。

苦しいくらい私、寿彦さんが好き。

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