恋してバックスクリーン
泣きたい気持ちに蓋をして、得意先に直行する。行き先は、流星区役所。私の働くブルースター製菓は、ビスケットやクッキーなどを製造、販売する会社。四月中旬に行われる流星区役所の『流星まつり』に流星区に会社があるうちも出展することになり、その打ち合わせに来たのだ。

「加茂泰弘です。よろしくお願いします」

今回、担当してくださった加茂さんは、小柄で優しい雰囲気の方。大柄で無愛想な寿彦さんとは正反対のタイプだ。

あ……また私、寿彦さんのことを……。打ち合わせ中に寿彦さんはいらない。

まずは『流星まつり』についての説明を受ける。会場は、なぜだか流星区民球場。今回、初めての試みだそうで、流星区にある企業や商店に出展してもらい、流星区の良いところをPRするのが目的だそうだ。

「ところで、羽島さん。野球はご覧になりますか?」

野球=寿彦さん。加茂さんの口から『野球』というワードが出て、胸の鼓動がスピードをあげる。

「ええ、はい……まぁ」

「そうですか! 当日、青空区との野球大会もありますので、ブースでお忙しいとは存じますが、興味があれば……」

「えっ!? 青空区と?」

思わず、立ち上がる。青空スターズとの試合?

「羽島さん……?」

そんな私を、眉をひそめて加茂さんが見上げた。

「あ、ああ! すみません」

適当な作り笑いを浮かべると、慌てて椅子に座り直した。

「では当日、よろしくお願いします」


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