恋してバックスクリーン
「サンダーズのエースって?」

「加茂さんって言う、サイドスローのイケメンだよ。莉乃の好みのタイプかもしれないけれど、今は寿彦さんがいるからね」

加茂さん? 加茂さんって、こないだ名刺をいただいた、流星区役所の人! 驚いて、マウンドの加茂さんに視線を送った。

加茂さんは立ち上がりから、早いストレートで三振をとる。さすがエースだ、と敵ながら感心させられた。下位打線の寿彦さんにまわることなく、一回を三者凡退に抑えた。

強い、強いと聞いていたけれど。やっぱりサンダーズは強かった。エースの前に歯が立たず、三振の山。打線もサンダーズの方が一枚上手だった。

終わってみれば、七対一。一点は、甘く入ったストレートをジャストミートさせたホームランの一本だけ。

「残念だったね……」

今日は、『フルカウント』での打ち上げも無し。ふたり、言葉少なになり、しばらくベンチに座って、ぼんやりとグラウンドをみつめていた。

「あ! そろそろブースの後片付けの時間じゃない?」

うちのブースの商品は完売してしまい、仕事は終わったけれど、『流星まつり』の後片付けをするように言われていた。

ふたり、慌てて球場外へと飛び出した。流星サンダーズのユニホーム姿の方々も、チラホラ見受けられた。



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