恋してバックスクリーン
流星区民球場から、バスで駅に向かう。並んで座ると、私の手をそっと握った寿彦さん。駅までは十分ほどだけれど、こんなささやかな幸せが、ずっと続けばいいのにと願った。

「ご褒美に」

バスを降りるとき、人目を気にして手を離した寿彦さんが、ボソリとつぶやいた。そんな大きな背中について行くと、駅前にある、赤い屋根の洋菓子店に入っていった。

「好きなの、選んで?」

「いいの? ありがとう」

おいしそうなケーキをおごってもらえるよりも、寿彦さんの心遣いがうれしかった。さんざん悩んだ挙句、この店の人気ナンバーワンを選んだ。

寿彦さんが会計をしてくれている間、店内の焼き菓子をながめていた。ショーケースのケーキもおいしそうだけれど、焼き菓子もおいしそう……。

「トリュフ、完売しました……」

ふと、目に入った看板の文字を読む。

「トリュフがよかった?」

私の言葉に、寿彦さんが反応した。

「ううん。ただ単に、目に入った文字を読んだだけ……」

そう言って、肩を並べて店から出ようとしたときだった。

「あら。おふたり揃って」

声の主は、長い髪の女性だった。

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