恋してバックスクリーン
あっ、と言う声も出せず、後ずさる。寿彦さんの浮気相手の女性は、余裕たっぷりでにっこりと微笑んだ。

寿彦さんは、そんな私の手を取ると、なにも言わずにその場から立ち去ろうとした。

「まだ返事、聞いていないよ」

……なんの返事? 胸の鼓動が早くて、息苦しくなった。

「ちょっと考えさせて?」

……なにを? 頭の中が真っ白になる。

「わかった。じゃあ、また」

女性は、洋菓子店の中に入っていった。浮気相手と遭遇したにもかかわらず、寿彦さんはうろたえることもしない。

なんで? 浮気はお手の物? それか、やっぱり私のこと……。

「莉乃ちゃん? どうしたの」

急に足を止めた私に、寿彦さんが声をかけてくれた。このタイミングで、聞いてみようかな……。でも、もし、私のことを彼女だと思っていなかったら……。

「ううん。ケーキ、早く食べたいな」

作り笑いを見せる。この手を離されるくらいなら、浮気くらい大目にみよう。浮気されるよりも、別れを告げられるほうが辛いから……。

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