恋してバックスクリーン
気をとりなおして……。

「いただきまーす」

さりげなく、真っ赤な包装紙に包まれた箱をテーブルの上に置いたままにした。

「これも、よかったら」

寿彦さんが、テーブルの中央に、真っ赤な包装紙に包まれた箱を引き寄せた。

「中身は? 開けてもいい?」

「どうぞ」

許可がおりたので、しれっとした顔で包装紙を破らないようにそっと開けた。

「手紙、入っている……よ?」

初めて見ましたかのように、手紙をそっと差し出す。

「一緒に捨てておいて」

「え? でも……大切なメッセージやないの?」

「読んだから、いい」

『読んだから、いい』とか、そういう問題!? 短い文章の中身は、かなり濃厚な気がするけれど!?

「でも、せっかくのメッセージ……」

「聖子からだから、いいよ」

『聖子』って、誰!? 私でも『莉乃ちゃん』って呼ばれているのに、呼び捨てとか! さらに胸の鼓動が加速する。

「聖子さんって、もしかして……」

「ああ。さっき会ったアイツ」

『アイツ』とか、すごい親密な感じ……。もうこれ以上、なにも聞けない……。戦ってもいないのに、すでに敗北感。

私の気持ちも知らない寿彦さんは、ケーキを平らげると、トリュフに手を伸ばした。さりげなく、私の方に箱を近づけ、無言で『食べたら?』と勧めた。

こうなりゃ、ヤケだ!

「いただきます!」

口にしたトリュフは、聖子と呼ばれた女性のように、クールな中にも甘さがある、そんな味がした。





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