恋してバックスクリーン
「でも、あの、私……お付き合いしている男性がいるので……」

しどろもどろする私をみつめたまま、笑顔でうんうんとうなずいた。

「恋愛なんて、弱肉強食です。結婚されていないのなら、なんの問題もありません」

店員さん! 早くサンマー麺、持ってきて! 加茂さんから逃れる方法が、見当たらない。

「困ったことに、あなたを好きになってしまったようです」

慌てふためく私を、さらに混乱させるような言葉を加茂さんが放った。

「……はっ?」

聞き返したタイミングで、サンマー麺が運ばれてきた。おしい! あと数分、いや、数秒でも早ければよかった!

「じゃあ、いただきましょうか?」

「は、はいっ!」

とりあえず、さっきの言葉は忘れて、いただきますをして食べ始める。サンマー麺は、もやし、肉、色とりどりの野菜が乗っていて、醤油ベースのスープにあんが絡んだ麺だ。

「サンマー麺の名前の由来をご存知ですか?」

食べながら、話題を提供してくれる加茂さん。今日、初めて食べたのに、知る由もない。

「サンマーは、漢字で生馬と書きます。広東語の読み方で『サン』は、『新鮮でシャキシャキした』と言う意味。『マー』は『上に乗せる』と言う意味です」

「……はぁ」

今、サンマー麺の名前の由来を話されても、申し訳ないが頭に入ってこない。

「新鮮な野菜や肉をサッと炒めて、シャキシャキ感のある具を麺の上に乗せることから名付けられたらしいです」

「……はぁ、そうでしたか……」

早く食べ終わりたいのだけれど、あんが絡んでいるせいかなかなか冷めない。

「サンマー麺にしてよかったなぁ」

ふぅーふぅー、と、必死になって冷まそうとする私を見て、加茂さんがつぶやいた。



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