恋してバックスクリーン
商店街にある行きつけの居酒屋『フルカウント』が、私たちの指定席。

「いらっしゃい」

店長の古川さんが直々ビールを運んでくれた。青空スターズは、寿彦さんたちが働く青空区役所の野球チームで、どういうわけか商店街の方々にはよく知られていた。

「来週は、サンダーズとの試合ですね」

流星サンダーズは、流星区役所の野球チーム。この近辺の草野球チームの中でいちばん強い。プロのファームチームに勝ったとか、チームの元エースがプロ野球の入団テストに合格して育成契約を結んだとか。

どちらにしても私の地元ではないから、よくわからないけれど。

「店長、よくご存知で」

海津さんがビールを受け取りながら、笑顔を見せた。そんなときも寿彦さんは無表情で、それを受け取る。

「青空スターズのファンですから。応援していますよ!」

「ありがとうございます」

海津さんが愛想いいのか、寿彦さんが愛想悪すぎるのか……。向かい合うふたりを、隣からこっそりと観察した。

「はい、グラス持って! 乾杯!」

海津さんの音頭で四人はグラスを合わせた。こんなときは「乾杯!」とか言うもんやけれど、やっぱり寿彦さんは無表情で軽く会釈をするだけだ。

こんなに喜怒哀楽がない人、他に知らない。心を開いているはずの私たちにさえ、あまり笑顔を見せないんやから。

ここまでのレベルだと、無愛想というより変わり者だと思う。そんな寿彦さんを好きな私も、相当変わり者だと思う。


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