恋してバックスクリーン
寿彦さん、お腹が空いて、機嫌が悪いのかも? そう思った私は、慌てて食事の準備を始めた。

「バッティングしてくる」

そんな私を置いて、寿彦さんは出かけてしまった。どうやら虫の居所が悪いらしい。まぁ、寿彦さんだってそんな日は、あるよね……。さほど気にすることなく、食事の準備を進めた。


「ただいま」

ごはんができあがった頃、寿彦さんが帰ってきた。

「おかえり。今、ごはんができたよ」

虫の居所が悪くても、関係ない。私は、いつものように明るく話した。

ふたり、テーブルを囲んで食べ始めようとしたとき、タイミング悪く、電話が鳴った。

「ごめん。先に食べて?」

得意先からの電話かもしれない。確認すると、加茂さんからだった。

無視しようか……とも思ったけれど、一応、得意先だから無視できない。

「はい。羽島です」

『加茂です。今日は、ありがとう』

「あ、はい、どうも……お世話になります」

チラチラと寿彦さんを気にしながら、他人行儀な返事をする。

『なに? その話し方。もしかして、隣に関さんがいるの?』

なに? と言いたいのは、私のほうで。一緒に食事をしただけで、もうタメ口で話している。

「はい」

『もしかして、同棲しているとか?』

「はい」

『ふぅーん、そうか。ますます奪いたくなるな……』

「え!?」

思わず、声が大きくなる。チラリと寿彦さんを見ると目が合い、慌てて逸らした。

『また、電話する。関さんによろしく』

電話は、一方的に切られた。思わず、ため息が漏れた。

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