恋してバックスクリーン
「え、あ、あのっ!」

突然のことに、なにを言えばいいのか、言葉が出ない。

「大丈夫。夜道が危ないから、車で送るだけ」

「あ、あのっ! 私、大丈夫ですから手を離してください!」

私の言うことは、受け入れてくれた。とりあえず、その場で立ち止まる。

「車、あっちの駐車場だから」

「乗る気、ないですから!」

私の気迫に、ふんっと鼻で笑った。通りを歩く人たちの、視線が痛い。

「せっかく送るって、言っているのに」

「お気持ちはありがたいですが……そんな」

「……莉乃ちゃん」

向き合う加茂さんと私の背後から、低い声が聞こえてきた。ハッとして振り向くと、口をぽかんと開けた寿彦さんが立っていた。

な、なんでこんなことに……。

ああ、そうや。飲み会の場所、寿彦さんに教えていた。それと……。教えるつもりはなかったのに、誘導尋問にひっかかり、加茂さんにまで!

「おや? 関さん、こんなところでお会いするなんて」

「寿彦さん! 違うねん! ふたりで飲みに行ったわけやないんやで! さっきまで会社の人たちと……」

「言い訳は、聞きたくない」

寿彦さんは、それだけ言うと、人ごみの中を逃げるように走っていった。

「ちょっ、と! 待って……」

走り出そうとした私を、加茂さんが止める。グイッと、腕を掴んで……。

「は、離して……」

「彼は放っておいて、ふたりで」

加茂さんの言葉を遮るように、肘鉄をくらわせると、人ごみの中、寿彦さんを探した。


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