恋してバックスクリーン
うれしさのあまり、膝から崩れ落ちそうになるところを、グッとたえた。

「でもオレだって、莉乃ちゃんが好きです。莉乃ちゃんを振り向かせる自信があります」

加茂さんは、一歩もひかない。とにかく、目を合わせてはいけない。ブンブンと首を横に振った。早くなる鼓動で、胸が苦しい。

「それなら……」

寿彦さんが一歩、加茂さんに歩み寄った。

「六月の試合で、青空スターズが勝ったら、彼女には二度と近づかないと約束してください」

えっ!? と、寿彦さん! 流星サンダーズに連敗続きの青空スターズが、勝てるの?

「じゃあ負けたら、莉乃ちゃんと別れてくれます?」

えっ!? 加茂さん!?

口をパクパクさせながら、ふたりを交互に見た。加茂さんは、相変わらず余裕たっぷりの表情で、寿彦さんは……。

……こんなに真剣なまなざし、野球の試合以外で見たことがない……。

寿彦さんを、信じるしかない。

「わかりました」

寿彦さんの返事を聞くと、加茂さんは帰っていった。青空スターズが負けたら、寿彦さんと別れなければならない。そう思ったとたん、力が抜けて、ヘナヘナと地面に座り込んだ。

「莉乃、大丈夫?」

いつの間にか、穂花と海津さんもきていた。穂花に手を取られ、なんとか立ち上がった。

「六月の試合、絶対負けられないな!」

海津さんがグッと拳を握り、やる気をみせた。でも、寿彦さんは、いつもの無表情に戻っていた。

もしかして、勢いで言った!?

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