恋してバックスクリーン
寿彦さんが、すっと身体を離して、私をまっすぐにみつめた。

「じゃあ、次。加茂さんとの関係を聞かせて?」

『加茂さん』と言う名前を聞くと、ため息がもれた。

「関係もなにも。仕事で打ち合わせをして……ほら! 『流星まつり』って、あったやん?」

「ああ、アレ……」

「それで後日、電話があって。仕事やと思って行ったら、ただ単に食事をしたかった……って言われて」

「サンマー麺」

寿彦さんの口から、そんな言葉がもれた。なんで、知っているの!? と、目を丸くした。

「商店街の店で、サンマー麺を食べた」

「な、なんで知っているん?」

「加茂さんに、聞いたから」

どういうこと? なんで、加茂さん……わざわざ寿彦さんに、そんなこと。

「野球絡みで、お互いの連絡先を知っていて。加茂さん、わざわざ連絡をくれた。『莉乃ちゃんが、誘いにのった』って」

「ち、違う! 私は仕事やと思ったから」

「うん。それならいい」

寿彦さんの中で、誤解は解けたようだ。もう一度、優しく抱きしめてくれた。

「ごめん。傷つけて、ごめん」

寿彦さんの胸で泣きじゃくりながら、何度も謝った。

「うん」

少ない口数の寿彦さんに戻った。でもそれが、かえっていつもの寿彦さんに思えて、安心した。

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