恋してバックスクリーン

試合は一対0のまま、最終回を迎えた。この回で点が取れなかったら、負けてしまう……。負けたら、私……。

嫌なことばかりが、頭をよぎる。応援している私がこんなことだから、あっさりツーアウトを取られた。

九回表、ツーアウト。打席には、今日ノーヒットの寿彦さん。

「かっとばせー! 寿彦!」

大きな球場じゃないし、満員のお客さんがいるわけでもない。私の声が風に乗って、寿彦さんの耳に届くはず。

「ホームラン、ホームラン、寿彦!」

今までなんで、黙って観ていたんやろ? 寿彦さんに足りなかったのは、練習量でも、運でもない。

寿彦さんを後押しする、私の声だ。

「かっとばせー! 寿彦」

とにかく名前を呼んで、応援した。寿彦さんを呼ぶ私の声が消えないよう、穂花は手拍子をして一緒に応援してくれた。

スリーボール、ワンストライク。加茂さんを追い込んだ。

「寿彦さーーーーん!」

ありったけの声を振り絞った。このまま、終わらないで!

五球目。カキーン、と快音が響いたものの、打球はファールゾーンにきれていった。

これで、フルカウント。打つか、抑えられるか。試合を左右する、運命の一球。

「寿彦さん、打って!」

居ても立っても居られない。ひときわ大きな声で叫んだ。

カキーン、と、快音が響き、みんなの視線が白球を追いかけた。



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