恋してバックスクリーン
センターの見上げる先、寿彦さんの打球は、バックスクリーンに直撃した。

「はぁぁぁぁー!」

入った……!! 言葉にならない声をあげると、立ち上がった穂花と抱き合った。バックスクリーンを直撃するホームランで、試合を振り出しに戻した。

ダイアモンドをゆっくりと一周する寿彦さんに、笑顔はなかった。そう、まだ勝ったわけではなく、あくまで振り出しに戻しただけだ。

九回表は、この一点を返すのが精いっぱいで、九回裏に入った。

流星サンダーズの攻撃。青空スターズの抑えは、山県さん。ひとり、ふたりと連続三振に抑えた。

この調子であとひとり抑えれば、延長戦に突入する。そのプレッシャーなのか、なかなかストライクが決まらず、スリーボール、ノーストライクと追い込まれた。

スタンドで見守る私たちは、もう祈るしかなかった。カキーンという快音とともに、顔をあげた。その打球は、フェンス直撃のスリーベースヒットになった。

こんなときに、迎えるバッターは加茂さん……。マウンドに選手たちが集まり、山県さんに声をかけると、自分たちの持ち場に戻った。

山県さんは落ち着きを取り戻したのか、一球目はストライク、二球目はファールで、加茂さんを追い込んだ。

あと一球。ストライクでも、ゴロでも、なんでもいいからアウトにしてほしい!

そんな願いを乗せた白球が、投げ込まれた。

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