恋してバックスクリーン
……いや、ちょっと待って。寿彦さんのことやから、特になんの意味もなく、プレゼントしてくれた、とか?

もしかしたら、今回、いろいろあったから『ごめんね』のプレゼントなのかもしれないし。

紙袋に手を伸ばし、紙袋の中で箱の中身を確認した。想像した通り、指輪が入っていた。

「寿彦さん、あの……」

「ん?」

返事だけは、してくれた。話は、少なくとも聞こえているということか。

「この指輪……」

そう口にした瞬間、カキーンと快音が響いた。寿彦さんが思わず立ち上がると、打球はバックスクリーンに直撃した。

「おー!」

青く染まった横浜スタジアムが揺れた。寿彦さんは、ぜんぜん知らない隣の席の人と、ハイタッチをしていた。

もはや、私の出る幕はない。スタンドのファンは、横浜市歌を歌う。大阪出身の私は、その歌の存在を、このスタジアムで知った。

あー。寿彦さんまで歌っているし。とりあえず、大事な話は後回しにした方が良さそうだ……。



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