私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
「………椿が遠くて、怖ぇよ、俺は……」
そう言って、一護は、私を抱きしめるように一緒に横になる。抗うことも出来ずに、私はその腕の中でじっとしていた。
これは、友達を心配してくれた優しさ?
慰めてくれてるんだろうか……。
「このまま、眠っちまうか……椿」
「…………」
「お前への命令、これでいいから、俺の言う通りにしとけ…」
それは、卓球の何でも言う事を聞かせられる権利のことだりうか。
こんなときに使うなんて、ズルイ……。
ーー返事は、出来なかった。
望む事は出来ないから、せめて……。
一護が許してくれるまでは、傍にいたい。
好きな人に抱きしめられる幸せ、名前を呼ばれる幸せ、髪をなでられる幸せ……。
ごめんね、紗枝。
ごめんね、一護。
私はまた、幸福に抗えない。
疲れていたのか、すぐに眠気はやってきて、私はぼんやりとした意識の中で、何かを聞いた。
「………椿、俺はお前の事が……」
一護、今なんて……。
あぁ、でもダメだ……もう、起きてられない…。
この腕の強さが、体温が心地よくて、一護の言葉を最後まで聞き届けることなく、混沌へと沈んでいった。