私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
「瑞希先輩、おはようございます」
「うん、おはよう椿ちゃん」
サラサラの黒髪を靡かせてその長い指でメガネをクイッと直す仕草にみとれる。
瑞希先輩は、文系の大学に通う大学1年生で、私より1時間遅れで18時からのシフト入りだ。
「はよっす、瑞希先輩」
そして、騒ぎを聞きつけた一護がこちらへやってきた。
チラッと私を見て、すぐに視線を反らされる。
ムカつく……なんか言えばいいのに。
腹の中でムカムカしていると、瑞希先輩はそんな私に気づいてか、自然と背に庇うように前へ出た。
「おはよう、一護。今日は空いてるね、雨だからかな?」
「そうっスね……どんなに駅近でも、こんな天気なら俺だって早く帰りたいって思うっすよ」
……いつも思う。
一護は、身長が高いから、白のワイシャツに黒の腰巻のエプロン、このカフェの制服が良く似合うんだ。
対して私達は白のワイシャツに黒いタイトスカート。
最初はもう少し足が細くて長ければと、恥ずかしがったけど、このバイト先にお世話になって2年、今じゃ慣れたものだ。