私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
「椿、こっち向け」
「え……」
突然、一護が私の耳に触れる。
髪を掻き上げて、耳たぶにヒンヤリとした感覚が襲う。
反対の耳も同じようにされると、一護はゆっくりと体を離した。
「ん、やっぱ似合ってる」
「え、なに?」
私は慌てて両耳に触れると、ピアスがされていた。
ポケットに入っていたの手鏡を取り出して、耳を見ると、見覚えのあるペリドットのピアス。
「これ……っ」
いつか、一護と出掛けた日に見たピアスだった。
信じられなくて、震える手でピアスに触れながら、じんわりと涙が滲む。
こんなの、嬉しすぎて……幸せぎて、どうしたらいいのか、分からないよっ。
「本当は、8月の誕生日に渡そうと思ってたんだけどよ、ギクシャクしてて、ずっと渡せなかった」
そうだ、あの時は旅行で、私が一護から離れた。
しばらく、連絡もとらず、バイト先でも目すら合わせなかった時期だったから……。
「やっと渡せて、良かった」
「………大好き、だれよりも一護が…っ」
もう、想いが通じあっても、溢れてしょうがない。
好きが私の身体中を駆け巡って、心地よくて、苦しい。
「俺の方が、好きだっつーの」
「絶対に私の方が好き」
ーーー私の唇は、嘘つきな唇だ。
本当の気持ちなんて、絶対に伝えたりしない。
天の邪鬼で可愛げのない唇。
口から出たでまかせは、気持ちを伝える事を許されないから、自分の心を騙すために必要だった。
でも、重なる唇に、私は誓うよ。
もう、キミだけをずっと……好きでいる。
この想いだけは、これから先偽ることなく言葉にするよ。
この想いが、嘘ではないことを、何度もキミに、永遠に消える事がないように、何度も伝えよう。
ーーー一護、キミが……世界で誰よりも好きですって。
『私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。』Fin