私の唇は、大好きなキミへ嘘をつく。
好きになる瞬間
***
教室で、一護と最悪な別かれ方をした翌日。
紗枝が私の方を向いて、談笑していると、
♪~♪~♪~
「っ!」
突然、クラスの誰かのスマホが鳴った。
その音に…正確に言うと、その音楽に過敏に反応する。
「やばい…スピグラだ…」
私がポツリと呟くと、紗枝はプッと吹き出した。
「本当好きだね、スピグラ」
『spirit gravity(スピリット グラビティ)』という男の人4人で組まれたバンドの曲。
実は、大ファンだったりする。
カッコいいし、何より曲調が盛り上がるノリの良い曲ばっかりなんだよね。
ライブには何回か行ったし、ファンクラブにも入ってるほどだ。
「メンバーも曲もカッコいいし、こう…闘争心を掻き立てるというか!」
「えー、私はyumiの方が好きだなぁ」
男子が聞きそうな曲の方が好きな私と、女の子の恋ばかり歌うyumiが好きな紗枝。
「もー、わからずや」
「一護も好きだったよね、そのバンド」
「あっ……」
そういえば、高校一年の時も、その話題で盛り上がったっけ。よく、CDショップとか行ったな……。
「椿は、もっと女の子らしい曲聞きなよー。ほら、これなんてオススメ!」
紗枝は、無理矢理スマホに繋いだイヤホンを私の耳に押し込む。
好きな音楽の話になると、いつもこうなるんだから。
どっちの方が良い曲か、聞かせ合いっこしたり、あぁ、聞いてみると良い曲だなぁとか、新しい発見があったり。
これが、なかなか楽しい。
ー♪~♪~♪~
「お、これはなかなかじゃん」
「でしょー!!」
なんとなく、認めるのは私のプライドが許さないので、私は意地張って「なかなか」だと言った。
「というか、紗枝がどうして自慢げなの」
「ほらほら、これも聞いて!」
私の話を聞かずに次々曲を聞かせる紗枝に私は苦笑いを浮かべる。
これが始まったら長いんだよね…。
次は、絶対スピグラ聞かせよう。
そんな事を考えながら、私はyumiの曲に耳を傾けた。